吉田自転車
漫画家・吉田戦車の初のエッセイ集。趣味の自転車であちこちに 出かけた際に起こる出来事を描いている。 本格的に自転車でどうこういうしたというものではなく、散歩の 延長としての自転車であり、描かれているイラストとも相まって ゆるい雰囲気が心地いい。 好きな水木一郎のアニメソングカセットを聴いていたら 地元で放送されてなくて観れなかった鋼鉄ジーグの「ひろしのテーマ」が 流れてきて盛り下がってしまったり、競輪場で担当編集者から 麺類を食べて欲しいと言われながらスイトンを食べて顰蹙を 買いかけながらも、その編集者も結局スイトンをたべて満足したなど ゆるい感じの笑いが多く出てくる。 このゆるさ、何度も読み返すことになりそう。 ・ 吉田電車
『伝染るんです』や『ぷりぷり県』などのギャグ漫画で人気のある 吉田戦車が電車での旅行を書いたエッセイ集。 麺類が大好きで、大抵の場所でラーメンやそば、場合によっては どじょうも麺の一種とこじつけて食べる。 鉄腕アトムでおなじみのお茶の水博士に勝手に勝蔵という名前を つけたり、サッカー場でファンルームと記された扉を見つけて ファンが何をするための部屋なのか・・・?と考え込んだりしていて 思わず半笑いしてしまう。 (言うまでもなく、ここでのファンルームとは空調の意味) また、花泥棒のイメージやブルーギャル、店の名前を昔の殿様に 「家来」と名づけられてしまう店主の図など、著者独特のあやしげな 漫画が随所に描かれていて面白い。 鉄道エッセイは宮脇俊三が正統的なタイプと思うが、この作品は 鉄道マニアでない人が書いているだけに、鉄道に詳しくなくても 軽く読むことが出来る。 ・ もっとおもしろくても理科
理科について分かりやすく語っていくエッセイの シリーズ2冊目。 進化から始まり生物とは、動植物の違い、性差と進んで いったんロケットや原子、ビッグバン理論へ、 そして再び生物に戻って遺伝子について語っている。 清水義範が必ずしも得意ではない分野について ひいひい言いながら語っている様が面白い。 特にビッグバン理論については対話形式で 大づかみに分かったような気がしたのでよかった。 また、内容とは必ずしも対応していない西原理恵子の へたくそで品がないけどつい見てしまうような独特の 魅力ある挿絵が、いい味を出している。 ・ 信長街道
織田信長生誕の地である那古屋城から、終焉の地である本能寺までを 著者が実際に訪れ、最近の研究結果を踏まえて信長の行動について 述べた歴史エッセイ。 桶狭間の合戦は通説にある奇襲作戦ではなく、訓練を積んだ精鋭部隊の 織田軍が狭い場所で縦列行動を強いられた今川軍をまともに打ち破った ものであることや、今川義元は上洛よりも伊勢湾経済圏の利権を支配下に 置くことを目的として尾張攻めを行ったことが出てくる。 また、信長の敵にとして武田、朝倉、浅井、本願寺など多く出てくるが、 それらを操った真の黒幕は、公家の近衛前久であったことが随所に出てきて これまでになかったところであり、面白かった。 ・ 異議あり日本史
歴史小説や教科書にてイメージされる人物たちの事例を疑い、 著者なりの見解を述べている歴史エッセイ集。 例えば徳川家光の乳母として権力を振るった春日局の夫だった 稲葉正成はかなりの策士だったのではないか、とか 鎌倉時代の将軍たちは本当に執権であった北条氏にいいように 操られた哀れなロボットばかりだったのか、新井白石は 政治家や学者としてはどうだったのかなど、通常そのまま 受け入れてしまっている歴史のイメージに疑問を唱えている。 その上で資料にあたった上での意見を述べていて、新鮮に感じる ものも多く面白い。 ・ 東眺西望―歴史エッセイ
ギリシアとローマ、大航海時代の前史となるイスラムの文化など、 大局的な視点から描かれた歴史エッセイ集。 ルネサンスが主にイベリア半島やイタリアで起こったのは、当時 文明の先進国だったイスラムの影響を強く受けていたため、とか 日本が日清戦争を起こした時期はロシアのシベリア鉄道開通と 不平等条約改正交渉という2つのファクターが強く影響していたなど ああそういう見方があったかと新鮮な事例が多く出てくる。 どうしても歴史は一国あるいは地域単位で見てしまう傾向があるので 広い視点からそれぞれの国や地域で起こった事件の相関関係を考える ことは大切と思った。 ・ SF魂
『日本沈没』『復活の日』などの著作で知られるSF作家の小松左京が 自らを振り返った自伝。 戦後、日本でまだSFがあまり評価されていなかった頃から星新一や 筒井康隆らと共に日本SFを引っ張ってきた人なので、その業績がかなり 日本SFの歴史と重なる部分がある。 彼はSF作品を出すだけではなく、大阪万博や大阪花博のプロデュースや 未来学研究会の立ち上げ、さよならジュピターの映画制作と、何人分もの 仕事を行っており、そのバイタリティーにはダ・ヴィンチを思わせるものが ある。 どうも小松さんはかなりの凝り性と思われ、何かについて調べ始めると とことんまでのめりこみ、その調査結果を何冊も本として出している。 本として出るということはかなりのレベルをもち、読者に分かりやすく 説明できるほどに理解しているということであり、この点でも凄みを 感じるところである。 また、本書の中では戦時中の雰囲気への危機感や、進んだ科学を持って しまった人類への心配、宇宙で人類が発生したことへの意味などをSFを 通して語ろうとした等書かれておりその深さを知るほどに、小松SFを 軽く読むことはできないなと思った。 ・ 他人と深く関わらずに生きるには
”義務付けられたボランティアは強制労働”、”濃厚な付き合いは神経をつかう”、 ”国家はおせっかいをなるべく焼くべきではない”など、人間関係に疲れる人向けの 個人主義の勧めとでもいった本。 会社がらみの付き合いや親戚づきあいにしばしば煩わしさを感じる立場からすると 実にうなずけてしまうものが多い。 特に、ボランティアは尊いといった風潮に対して、押し付けのボランティアはされるほうも 迷惑だし、教員免許取得の条件にボランティアを義務付けた田中真紀子はバカで卑怯だと いうあたりは論旨が明快で楽しい。 前半が個人の心がまえ的な記載で、後半がおせっかいをなるべく少なくする社会への 提言に関したものでラディカルな意見が目立つが、それはそれで面白い。 ・ さいえんす?
理系出身の作家である著者が主に科学的な事柄を描いたエッセイ集。 男女の距離感の違いや温暖化問題、技術の進歩による心配から、やや脱線して プロ野球改革案や出版業界の不況への危惧と結構真面目に論じている。 ただし難解なことは出ず、読みやすい。 書店で本を買わずに図書館や新古書店でのみ本を読む傾向が続くと、 本自体がなくなるという憤りはもっともと思った。 ・ ぼくたちは、銀行を作った。―ソニー銀行インサイド・ストーリー
ソニー銀行の設立メンバーで、取締役を務める十時氏が書いた ソニー銀行設立の物語。 金融監督庁へ銀行設立の相談に行くところから始まり、仲間の スカウトや当時の大賀会長、出井社長への説明、銀行設立計画の 凍結などを経るなど多くの出来事が発生する。 大変なことも多く出てくるが、著者らメンバーたちにユーモアが あり、前向きに物事にあたっているので読後感が良い。 設立が近くなって、ソニーの役員よりかけられた”ソニーは 挑戦者に優しい企業だよ”という言葉が印象に残った。 ソニー銀行は今のところ口座を開くことは考えていないが、 外貨預金や外貨MMFの手数料が安いことや、証券会社でもあまり 扱っていない外債インデックスファンドを販売しているのは魅力だと 思う。 ソニー本体は最近不調続きのように見えるが、頑張って欲しい。 ・ SEがゆく―波乱万丈!SE日記
以前仕事に関連するかと少しだけ思い、読んでみた本。 著者はコンピュータ産業の初期よりSEとして活躍しており 3社で働いた経験を赤裸々につづっている。 経営者のシステムに関する無理解やどんぶり勘定、突然の 仕様変更に伴ういさかいや、さらには社長の逮捕ひいては マルサやヤクザまで登場する。 職業へのこだわりや、システムの開発および運用についての 鋭い提言も書かれておりしっかりした構成となっている。 ・ きまぐれ暦
中学くらいの頃に読んだ、星新一のエッセイ集。 この中に「東京に原爆を!」というエッセイがあり、ここ数ヶ月 話題となっている耐震偽装問題のニュースを見ていて思いだした。 この内容というのは、いつ大地震が発生するか分からない東京で 地価核爆発を起こして人工的に大地震を発生させ、恐怖を一掃 しようというものである。当然事前に住民の退避計画を立て、 ガソリンも可能な限り他へ移しておくという条件もつく。 これを行うと、 ・地震への備えができる。 ・高騰していた土地の収用が容易となり、都市計画が整備できる。 ・どこの建設会社の建物が地震に強いか分かる。 ・東京市民に連帯意識が生まれる。 ・かつてない娯楽となる。 等の効果が期待できると書いている。 もちろん暴論であることは承知の思いつきのようではあるが、 耐震偽装問題で建物への信頼が揺らいでいる現状に対して 完全に疑惑を取り除こうと思ったらこの手しかないような気もする。 おそらく姉歯氏による構造計算でない高層マンションでも壊れる ものは壊れるだろうし、あるいは意外と姉歯氏が構造計算した マンションで残るものもあるかもしれない。 そういえば、江戸時代は火事がしょっちゅう起こったが、新たに 町民に雇用が生まれ潤ったような面もあるらしいので、上記の案が 実行されれば財政は更に傾くだろうが、景気はよくなりそうだ。 もっとも、このエッセイが書かれたのは高度成長期であり 当時大規模な地震はなかったのでこのようなことも書けたのだろう。 現在これをやると、下記のニュースにある通り REITのほとんどが破綻することが目に見えているのがつらいところ。 ファンドが姉歯に怯える理由 ・ 四十代は男の峠
『商社審査部二十四時』の著者の、中間管理職の苦労や 四十代に入ってからの感性の衰えへの慨嘆などが書かれたエッセイ集。 男女の視点の違い、年齢を経るごとによる物事の感じ方の変化など なかなか深い洞察が出て来て、ちょっと面白かった。 むさしキャンパス記
ハチャハチャSF作家であるかんべむさしの大学時代を描いたエッセイ集。 広告研究会でのバカ騒ぎのエピソードが多く、学生運動が起こっていた世相も 反映しており、時代を感じる。 かんべ氏が社会学部だったことは知らず、私の専攻も社会学・政治学で 就職に不利だったエピソードもあったのには親近感を感じた。 ちょっと面白かったというところ。 風塵抄
司馬遼太郎が80年代末から90年代初めにかけて産経新聞に連載していたエッセイを まとめたエッセイ集。 司馬の高座から歴史を観る語り口は健在で、現代にも残る習慣や文化について それらの歴史的経緯を語っていく。 当初は時事に関わらないテーマを語っていたが、当時の東欧民主化やバブル景気、 湾岸戦争など激動の時代だったためか後半ではそれらに関係したことも 語るようになっている。 あとがきでも、前代未聞の出来事が相次いだからと述べている。 ソ連や中国に関しては、広大な領土と多彩な人民が重荷になっていると語り 社会主義を大脳主義と例えて、計画経済がうまくいかなかったのは 脳が内臓を動かしたり細胞の代謝ができないのと同じであるとしているのは なかなか面白い言い回しだと思った。 また、他の著作でも語られているが、当時のバブルによる地価高騰と それに伴い土地や美術品の投機に奔るという風習がイヤで仕方がなかったらしく、 彼の考えを知る上で参考になる。
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