拒税同盟
税金を無駄遣いする国家に対してはできる限りの納税拒否をすることで 税金の使い方を見直させよう、という運動を行うという小説。 主人公たちは法律の範囲ぎりぎり、あるいは少し越えてでも税金を払わず また税務署が困るような方策を次々と提案して、人々はこれに対して 賛同していくことになる。 当然政府が黙っているわけはなく、さまざまな手段を弄して拒税同盟の 活動を妨害し、主人公は留置され検察と闘いを繰り広げることになる。 どの程度可能かはよく分からないが、税金の無駄遣いが行われているで あろう実態を考えると爽快な読後感を持った。 ・ 投資アドバイザー 有利子
証券会社で投資アドバイザーとして個人投資家にアドバイスを 行う財前有利子(ざいぜん・ありこ)を主人公とした連作の 経済小説。 有利子は顧客に損をさせないことを念頭においてアドバイスを 行うことで人気がある。その有利子に顧客が難題を持ちかけ 物語が進んでいく・・・ しかし後半になると有利子と同僚のカリスマトレーダーである 一樹とのロマンスや、彼女の隠された半生が明らかになり ストーリーに少し厚みが出てくる。 表紙の絵がやや苦手だったが、読みやすい内容でまずまず 面白かった。ただ、個人が投資するに当たって役に立つ ような内容はそれほどはない。 ・ eの悲劇―IT革命の光と影
以前は名トレーダーとして鳴らし、その後証券会社を退職しガードマンを 務めている篠山が、インターネットトレードや2000年問題、電子商取引など IT革命後に起こるドラマに出会うという経済小説の連作。 ストーリーはやや単調でそれほど深い感じはしないが、その分読みやすく 現代の経済の感じが出ているとは思う。 ・ 女子大生会計士の事件簿〈DX.1〉ベンチャーの王子様
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者が書いた、会計をテーマとした小説。 女子大生にして優秀な会計士の萌美と、会計士になりたての柿本が会計監査を 行う際に事件に巻き込まれ、それに立ち向かうというストーリーの連作。 会計操作や企業と監査法人の駆け引きなど、会計に関する知識や概念が登場して ためになったような気がする。 タイプは全く異なるが、青木雄二の『ナニワ金融道』のような感じで知識を 得ることができる点がちょっと似ているかもしれない。 ストーリーも軽妙なタッチにまとめられており、割とすんなり読み終えることができる。 ・ 価格破壊
ダイエーの創業者である中内功氏がモデルとされる小説。 主人公の矢口は、薬の安売りを大々的に行って、小売り価格を守らせようとする大手メーカーとの戦いに 否応なしに巻き込まれていく。 矢口のスーパーであるアローは順調に拡大を続けるが、大手メーカー側は政治家によって 圧力をかけたり、ライバル店を設立してアローの幹部を引き抜いて店長にすえるなど あの手この手で妨害にかかる。 特に争点となるのはメーカーと小売りの間の問屋をめぐる駆け引きで、メーカーはアローに 商品を卸す問屋を突き止めるために配送トラックの監視から製造番号を目立たないところに つけたり、さらには特殊な光線を当てないと分からないように識別番号までつけてくる。 この手の行動を行う平安電機という会社は、松下電工がモデルになっているらしく、 中内氏が特殊光線のからくりを国会議員の前で暴露したために松下幸之助社長と 絶縁状態に入り長らく対立を続けたとのことが伊藤元重の『ビジネス・エコノミクス』で 触れられていた。 自前の流通系列を構築して商品の安定供給を実現した松下のやり方も、また流通における 中抜き分を減らして消費者のために1円でも安い商品を供給しようというダイエーの やり方もそれぞれに理があり、一概にどちらがいいとは決められないだろう。 ダイエーは土地を銀行からの融資で購入して拡大を続けるという方法がバブル崩壊で 致命的なダメージを受けた形であるが、その経営手法は現在でも生きる部分はまだ 残っていると思う。 矢口の前向きというか、不屈の姿勢が読者に元気を与え、また高度成長期の企業の実態を 知る上でも実に有益な小説であった。 バブル崩壊から10年以上経った現在でも内容は古びていない。 社長、解任さる―短編小説全集〈下〉
裸の王様と化した社長を解任しようという謀略を描いた表題作の他、 企業内で起こる権力闘争とそれに巻き込まれるミドルの悲哀を 描いた短編集。 企業を私物化する労働組合の委員長、利権をちらつかせて企業の 人事に介入する官僚、自分の失敗を部下になすりつける幹部に 強引な手段で機密を聞き出そうとする新聞記者と、 企業小説につきものの典型的な悪役が各作品で登場する。 あまり聞いたことがない言葉だが、高度成長期に活躍した エリート商社マンを官僚に比して”民僚”と称していたようで 『民僚の転落』『民僚の挫折』といった作品では彼らが 幹部とのいさかいや謀略によってひどい目にあう。 『民僚の挫折』では帝人の社長夫人だった故大屋政子(派手な 格好をしてテレビに出ていた婆さん)をモデルとした女性が 登場してわがままぶりを発揮する。 『あざやかな退任』『社長留任宣言』『一時左遷』などは比較的 ハッピーエンドといえる結末であり、バランスが取れている。 果たしてこれらの作品に登場するような潔いというか最後まで 筋を通す人物がどれほどいるのだろうか。 つくづく、”すまじきものは宮仕え”という言葉が実感された。 まあ、仕方のない面はあると思うが。 会社蘇生
専門商社の小川商会が多額の負債のために会社更生法を申請し、 弁護士の宮野に保全管理人の依頼が持ち込まれ、 彼らが再建に向け奮闘する小説。 会社が会社更生法を申請すると当然のことながら信頼を失い 所有する営業権益やライセンスなどを狙って競合他社や 外資が暗躍する。また、取締役や監査役の責任があるものの これから逃れようとする者も出てくる。 内部的には経営のリストラに伴い多くの従業員を解雇を迫られ 残って欲しい有能な人物ほど自分から辞めてゆく。 このように逆風が吹き荒れる中、保全管理人は裁判所の委託を受けて 会社の資産を守り、債権者や取引先と交渉を行い、再建のスポンサーを 探すといった多くの仕事があり、ある意味企業の経営者よりも ハードな仕事となる。それだけにやりがいはあるようで、宮野は 苦境の中小川商会を再建に向けて前向きに引っ張ってゆく。 それが感動的ですがすがしい印象だった。 現在ダイエーが会社更生法申請に近いような状態で 再建は苦しいだろうが、できるだけいい形で再建がなされることを 望んでいる。 エリートの反乱
『労働貴族』、『懲戒解雇』などの長編の元となった作品も 含まれる短編集。 表題作は派閥争いの巻き添えを食ったエリート課長が 薄弱な理由で懲戒解雇をされそうになり、裁判に訴えて戦うというもの。 味方と思われていた人事部長も役員の椅子をちらつかされて あっさり陥落してしまうところが組織人のつらさである。 これは実際に起こったことを下敷きにして書かれたようであるが、 これはなかなかできることではない。 地位保全の申請を行って裁判に勝ったところで、会社を訴えた訳だから 社内においての居心地は悪いに決まっているからだ。 理不尽な管理職に対する復讐の意味合いが強いが、 ここまでやりますかね。 ところで作品そのものとは直接関係ないので どうでもいいが、この著者の作品では佐高信が解説を 書きすぎている。作品数からすると佐高の解説のものが 異常なくらい多い。 私は佐高があまり好きではないので、佐高の解説が連続すると 有名な作家であり解説を書いてくれる人はいくらでもいるだろうに・・・ との思いを持ってしまう。 一人の人物ががある作家の著作について解説をするのは 限界があり、同じような記載が出てしまうことが予想されるので いろいろな人に解説をしてもらい、多面的な視点から 分析をしてもらいたいと思うのだが。 あざやかな退任
大企業のワンマン社長が急死し、その後の体制をめぐって陰謀が渦巻く。 特に、筆頭株主の取引先から送り込まれた野村専務は後の後継者を目指し 根回し工作に暗躍する。一方 そんな中、後継社長とされる副社長の宮本は、役員会での決断に迫られ、 そこで出した結論とは・・・という話。 タイトルでネタバレしているというツッコミが入ってしまうが、読み終わって すがすがしい感じを得ることができた。 社長にはなりたいが、なってしまうと社の方向が先代の社長が望まなかった 方向に進んでしまう、どうする・・・という宮本の苦悩が随所に出てきて サラリーマンの悲哀が感じられた。 ま、未練を残したため引き際に失敗してしまう指導者が多いことを考えると 現実に宮本のような決断はなかなかできないと思う。 労働貴族
日産自動車の労働組合のボスとして権力を振るい、結果日産の 凋落を早めた塩路一郎を描いた作品。 塩路は組合の委員長として長年”塩路天皇”と呼ばれるほどの 権力を維持し、日産の人事権や経営判断にも口出しするなど 組合委員長の職分を超えてやりたい放題を行ってきたため 日産がトヨタから引き離され、没落していく一因となった。 労働組合は従業員の組合費によって成り立っているはずであるが その組合費が塩路の銀座通いやヨット、愛人の費用になってしまうのは そりゃ従業員のやる気もなくなるはずだ。 この作品の発表が一つのきっかけとなって塩路は失脚したらしいが、 まさにペンは剣よりも強しである。 社長の器
冷徹で攻撃的な大企業社長である兄と、温厚で正直な中小企業の経営者である 弟というタイプの異なる兄弟のの確執を通して、経営者に必要な資質とは何かと いうことを描いている。 国会議員でもある弟の高望が急死するシーンから始まり、高望と妻の正子の なれそめや高望と兄の征一の確執の回想へと移り、高望死後のごたごたへと 続いていく。 征一は文句があるとことあるごとにカナ文字タイプ横組みの長文で様々な 苦情を述べるシーンが出てくるが、この中で”ワタシハイソガシイノデ イイタイコトガアレバブンショウニテオツタエネガイタイ”といった ことを書いてくるが、このような文章を書く暇があれば人に会うことくらい できるだろうというつっこみをしたくなってくる。 全体的に弟である高望の立場から書かれていて、兄の征一は完全に意地悪な 悪役となっているが、これにはモデルがあってその人物への著者の怒りが もろに出ているのでやむをえないだろう。 征一にしても多国籍企業のオーナーになれたほどだからそれなりにいいところも あっただろうから、そのあたりも書かれていればさらに厚みを増して 面白くなっただろう。逆を言えばそのあたりを書かないくらい著者の怒りが 激しかったのだろう。
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