超「格差拡大」の時代
アメリカの一極支配による平和によって世界的にデフレが定着し、 だぶついた資金がアメリカの金融市場を経て各国における大プロジェクトに 投資されるという現状を解説している本。 大プロジェクトとしては資源やエネルギーの開発に関わるものが多く 以下のようなものが例として挙げられている。 ・日本近海などの海底に存在することが判明している”メタン・ハイドレード” (要は天然ガス)の開発。 ・ロシア周辺の油田・ガス田とバルト海や東シナ海とをつなぐ パイプライン開発。 ・インドシナ半島の国際河川であるメコン川の水運開発、ベトナムから ミャンマーにいたる国際自動車道路、中国国境からミャンマーを縦断し ベンガル湾に至る原油輸送パイプラインといった東南アジアを舞台とした 本格的なインフラ投資。 ・バルト海(スウェーデン⇔デンマーク)やアドリア海(イタリア南部⇔アルバニア)、 地中海(イタリア南部⇔シチリア島⇔チュニジア)、アルプス山脈などを通る橋梁や トンネルの建設。 ・オーストラリアの鉄鉱石・石炭の積出港であるポートダーウィンの 港湾施設の大拡張。 ・石油の代替エネルギーとしてのオイル・サンド(石油を含む砂)や オイル・シェール(含油頁岩)、石炭の液化などの実用化へ向けた研究。 莫大なコストとリスクを抱える事業も多いが、前世紀にそれらを使ってきた 戦争や革命に比べたら、実に建設的だと思う。 ・ 世界四大宗教の経済学
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教その他の宗教における それぞれのお金に対する考え方をまとめている本。 元の段階からそのまま経済に関わるような実践的な教えの多い ユダヤ教、利子を取ることを禁じていたはずなのにいつの間にか 特に問題なくなったキリスト教、基本的に今も銀行で利子を 取らないイスラム教など、教義に基づくお金の考え方が出てきて まあ面白かった。 ユダヤ教徒(=ユダヤ人)が差別されているのはベニスの商人のように 誤解に基づくものも多いということになるほどと思ったり、 異教徒からの盗みを肯定するイスラム教の教えはなかなかなじめそうに ないと思ったりした。 ・ イオン大躍進の秘密
他のスーパーやディスカウントストアなどを買収して大きく成長する イオンの拡大戦略と、イトーヨーカ堂やウォルマートなどライバルを 含めた小売業の業界分析を行っている本。 イオンは郊外のだだっ広い土地に巨大なショッピングセンターを 出店するのが特徴の一つだが、これは製造業で工場の海外移転に より跡地が出来ているのも背景にあるのはなるほどと思った。 また、イオンがグループで多角経営を行いカードや不動産事業で 成功している反面、コアであるはずのスーパーなど小売業で やや振るわないらしい。 しかも既存店の売上が下がっている上に、出店と閉店を繰り返した ことで負債も増えているとのことで、このあたりが弱点といえる。 ただしダイエーほど人材を軽視した経営をやっているわけでは なく、委員会等設置会社システムの導入など経営のてこ入れを 行っているとのこと。 イオンの岡田元也社長が、岡田克也・元民主党代表の実兄と いうのは知らなかった。以前別の本で岡田克也の地盤である 三重の選挙区にあるスーパーでは選挙時にかっちゃんセールと 呼ばれるバーゲンが行われるとあったが、イオンのことなの だろうか・・・? あと、米・ウォルマート型のエブリデーロープライス (毎日同じ、安い値段)を目指しているらしいが、正直なところ 世界一注文の多い日本の消費者には受け入れられないと思う。 地域ごとの出店戦略なども書かれていて、まあまあという評価。 ・ 日本のものづくりは世界一
著者の 『中国は日本を追い抜けない!』 や 『現場主義』 を読んでいて 日本の製造業の強さを語る論旨が明快で面白かったため、またも読んでみた。 基本的な論旨は以前の作品から一貫しているが、本作では製造業や日本社会の 足を引っ張るマスコミのミスリードへの厳しい批判がテーマとなっている。 日本のについては以下のような点が報道されることが多いが、それらがいかに 根拠が乏しいかを具体的な数字をあげて否定している。 ・そのうち中国に追い抜かれる →資本財を輸出している限りそれは10年は確実にない ・貿易立国のため円高で輸出産業が壊滅する →イメージほど貿易に依存していない ・自動車が輸出品の主力 →工作機械などの資本財が主力で、自動車は大したことがない ・失われた10年 →実は96年に一度復活している(97年にまたつまずいた) こうした誤った先入観に基づく悲観論のため景気がよくならないと 述べ、いいことを驚くほど報道しないマスコミの体質を斬っている。 単に批判するまでなら誰でも出来るが、著者は松下通信在籍時に NHKのニュースセンターについて改善に大ナタを振るって 9時のニュースを人気番組にしたとあるので説得力がある。 マスコミの報道を鵜呑みにせず、内容に気をつけなければならないと 改めて感じた。 ・ 現場主義
日本の製造業の強さを様々な角度から語り、 日本経済はまだまだ問題ないことを主張している本。 内容をいくつか挙げると以下のようになる。 ・理論がいくら正しくても、現場でそれは通らない。 理屈に合っていないようでも結果が最優先。 ・自動化が進み、日本企業が海外で生産を行っているのは 人件費によるよりむしろ、販売上や貿易上の理由による。 ・日本経済の多くを製造業が占めており、危機が叫ばれる 金融の比率、そして国家予算が占める割合は意外と たいした事がない。 ・新技術に飛びつく技術者が多いが、失敗の許されない プロジェクトではまず信頼性第一。実績のない技術を 使用すると失敗する。 日本社会の未来に希望が持てる内容で、読んでいて気持ちがいい。 ・ ヤバい経済学
ちょっと変わり者の経済学者が語る、一風変わった切り口から 社会や経済を論じている本。 教師と相撲取りの共通点とか、KKKと不動産屋の共通点、 成績のいい子の親はどのような共通点があるかなどといった ちょっとした問題提起から話が始まる。 そしてインチキや八百長を行うモチベーションの成り立ちや、 米国で犯罪が減ったのは犯罪予備軍となりうる子供が中絶解禁で 生まれてこなくなったから、そして子供の教育には家庭の調和や 教育プログラムはさほど関係なかったりするなど結構ラディカルな 結論を数値的なデータより割り出している。 どちらかといえば経済学よりも社会学の範疇に入るような気もするが、 通常良識的な学者がまず言わないようなことを言っているので 面白かった。 ・ プロになるための経済学的思考法
現在の日本経済が抱える問題や、日本社会の長所と短所を述べ、 そこからどう改善していくべきかを語っている本。 問題が整理されているとは思うが、あまりにオーソドックスすぎて 意外性がないのでそれほど面白いとは思わなかった。 ただ、日本社会が中空構造になっているという河合隼雄が唱えた概念が 紹介されていて、知らなかったのでなるほどと思った。 ・ 食がわかれば世界経済がわかる
食が世界経済に及ぼす影響について論じた本。 世界には食を資源ととらえる国(英国、米国、豪州、NZ等 アングロサクソン系の国)と文化ととらえる国(日本、中国、 フランス、イタリア等前者以外のほとんど)に大別され、 植民地支配が世界の大半に及んだ背景として食を資源と とらえる考え方が大きな影響を及ぼしたとしている。 その負の面として、ファストフードの普及による環境破壊や 文化の破壊、人体への悪影響、また骨肉粉を飼料としたことによる BSEの発生といった問題が出ている。 近年日本食がヘルシーな食事として脚光を浴びているのも ファストフードに対するスローフード運動が発生しているのも 食を資源とする考え方に対する反省があるとする。 日本食の人気にはそれだけが理由ではなく、食に対してプライドの強い フランスでも日本食の影響を受けた料理が出ているなど、素材の 新鮮さを生かすというコンセプトが受け入れられている。 おそらく新鮮な食材を手に入れられなかった頃はソースや調理法で カバーしていたのだろうが、技術や輸送方法の進歩によって 素材を活かすことが外国でも可能となったからであろう。 最初のフランスや中国の料理の紹介のところがややまどろっこしかった ような気もするが、まずまずまとまりのいい構成だったとは思う。 ・ クール・ジャパン 世界が買いたがる日本
アニメやマンガ、ゲームなど、日本のポップカルチャーが世界で 脚光を集めている現象と背景、そして今後日本でどのような 方向で進めていけばいいかを語っている本。 「ポケモン」や「もののけ姫」等がヒットしているのはよく知られているが、 日本的で地味とも取られかねない「めぞん一刻」もヒットしたことに 筆者は驚き、日本の作品への人気がそこの深いものであることを 実感したと書いている。 日本の作品はキリスト教やイスラム教のような宗教的なタブーが希薄であるため 自由な発想ができていることが人気の背景にあるらしい。 その後アメリカでも日本の影響を受けた作品が多く作られるようになり 日本作品の売り上げが鈍ってきたとのことだが、これは日本作品がヒット しなくなったというよりは他国にこれまで日本にあったような作品が なかったためなので悲観的になることはないという。 ただし、これまでビジネスとしては収益をあげることが充分にできないなど 課題も浮き彫りになっているため、下記の対策が必要と提唱している。 1.外国のブローカーに言いくるめられて不利な契約をしてしまう場合や 海賊版の横行が目立つため、知財保護の取り組みを本格的にやる。 (ただし、ほどほどに) 2.CGのようなデジタル処理に理系の才能が求められるため、アニメや 映画などの産業に必要とされる人材を育成する。また、デジタル画像など 比較的新しい分野の作品のアーティストを発掘・育成するシステムを 構築する。 世界向けに作製したものではなく自国内で販売するための商品だったため 海外での商売ではそれほど儲けを求めなかったのだろうが、今後さらに インセンティブをつけることもあり、利益を求めることも一つの方向性だと思う。 ・ 国家破綻はありえない
書店の店頭によく置いてある、日本経済が沈没するだの国債の累積で デフォルトに陥るだのといった本に対して、そんなことはなく日本は 今後も成長を続けると主張している本。 大きな論旨としては、おおむね下記の通り ・日本国債の累積で、近い将来危機に陥る →日本国債を保有している割合からいくと、郵便局や金融機関が大半を 占めるためそれほど心配する必要はない。 極端な話、返さなくてもいいくらいで、永久債にでもすれば問題の ほとんどは解決する。 ・少子高齢化で活力がなくなる →先進国の宿命で、そうならない方がおかしい。こうした社会は効率的に 経済が回るためむしろそれでいい。人口が増え続けるのがいいという人は ナイジェリアにでも移住すればよい。 他にも、日本は生もの(工作機械や金型といった先端工業)を作り続けるので 中国の追い上げなど恐くも何ともないことや、日本は一握りのエリートではなく 優秀な凡人たちが話し合いで物事を進めてきたため成功するなどといった点が 書かれていて、日本の将来はそう悪くないことが感じられて良い。 どうも日本がつまずいたのは、70〜80年代に凡人の合議制ではなく 田中角栄という天才が現れて国土の均一な発展を目指す政策が推し進められた点、 90年代に公共投資を誤った方向に向けてしまった点に原因があるとも書かれ、 なるほどそういう見方もあるかと納得した。 ただ、外交に関しては土下座外交をほどほどに続ければよいと書いてあったのには 異論がある。特に東アジア外交は毅然とした対応が求められるのではないか。 ・ 為替がわかれば世界がわかる
元大蔵省財務官として為替相場への介入を行った榊原氏が、為替と世界情勢の 関わりについて述べている本。 主に書かれているのは新古典派経済学に代表される理論がしばしば現実通りには いかないので、現実の世界情勢をしっかり分析して事に当たりべきということで あった。 例として、為替への介入は過去何度も失敗しており、経済理論でも意味がないと されていたのに対し、失敗の原因は何度も見え見えのやり方で行うからとして 抜き打ち的に大量の円売りを行うことで円高の是正に成功したことをあげている。 また、市場へのサプライズを与えるためには事前に秘密を守らなければならないが、 日本では記者クラブという悪しき習慣があるためそれが出来ない点に関して マスコミは他へ批判するくせに自分たちではカルテルを作っていると強烈に 非難している。 あと、為替への介入は結果的に見ると政府が資産運用をして利益を上げていると いう意見は言われてみれば確かにその通りと思った。 ・ 文明の技術史観―アジア発展の可能性
産業革命以降の世界史的な技術の流れを、組織と人という観点から 論じている本。 産業の勃興はアマチュアによる発明が続出した英国で、 大規模な工業発展は大規模な組織が機能したドイツや 消費者を拡大したアメリカによってなされた。 そして本格的な技術の大衆化を成し遂げたのは 日本という流れで書かれている。 そして技術は一通りの完成をして成熟に入ったとし 現在技術は資源や人口に恵まれたアジアに流れているという。 その後技術はどの方向に向かうかは答えは得られていないが アジアが重要なキーとなっていくという。 技術発展が組織と人の視点から述べられていたのを読むのは 初めてで、勉強になった。 お寺の経済学
一般にはあまり知られていないお寺や僧侶の経済の実態を調査し、経済学の観点から お寺を分析している本。 仏教の教えとは何かから宗派の違い、檀家制度、本末制度など実態を各章で述べており 現代はコミュニティの弱体化によって檀家制度や本末制度が機能しなくなっており、 お寺の経営は苦しくなっているという。 元はといえば江戸時代にキリシタン取締りの一環として檀家制度を設けたのが 既得権益化してそれに安住して経営努力が足りなくなってしまっている面が大きい。 個人的には、宗教勢力が暴れるほど元気というのはそれだけ救いを求めるほど荒れている 社会だと思うので、各宗教法人に保護を与えて弱体化させた上に泰平の世の中を 築いた江戸幕府は偉大だったと思うが。 もっとも宗教の重要性、お寺のインフラとしての役割は認識しているつもりなので 現代檀家のたががゆるんでいるのは淘汰によって信者によりよいお寺が残り栄える 過渡期といえるのかもしれない。 本書を読む前はお坊さんは税金を払わなくていいので楽そうだなと思っていたが、 檀家がいないことには収入がないので信者獲得をする必要があり、これはこれで けっこう大変だなと思った。 また、本山と末寺の本末関係は思っていたほど本山の力は強くないということは 意外だった。 社会で普段スポットの当たりにくい部分に関するもので地道な研究がなされており 初版から4ヶ月で第6版というのもうなずけた。 日本力
TBS「がっちりマンデー」にゲストとして登場した著者が最近出したと言っていたので 買って読んでみた。 日本は不況から脱せずに先行き不安、とか中国や韓国、さらにはインドの追い上げで 日本も追い抜かれてしまうのではないかなどの悲観論に真っ向から反対し、製品開発力や 文化などに代表される日本力があるため日本の先行きは過度には心配しなくてよいと 主張している本。 外国のマスコミが90年代に日本は不況に苦しんでいるという観測から日本へ取材に やってきたものの都会ではそれらしき傾向が見受けられず、著者がインタビューを受けた際必ず ”この国は本当に不況なのですか?” という質問を受けたという話は面白かった。 他には中国や韓国、インドが成長著しいといってもその先にある大きな障害があって 日本に本当に追いつくにはまだまだかかりそうだという点や、日本にはアメリカのように 失われた産業、見捨てられた産業が少なく奥行きがある点などが述べられており、 楽観論について説得力ある事例が列挙されている。 方向性としては技術的な話が出てくるところは長谷川慶太郎に近いが、全体的に日本の 文化の隆盛を強調して日本のマスコミの悲観論を批判している点は日下公人に似ていると 感じた。楽観的に日本が描かれているのがいい。 アジアは近代資本主義を超える
近代資本主義は普遍的なものではなく、欧米でたまたま発生したものだと論じ、 今後アジア流の開かれた多様性のあるシステムができてくるのではないかと 大局的な観点から推察している本。 著者はミスター円と呼ばれる元大蔵省の財務官で、通貨や為替の観点から 語るのかと思いきや、文化や文明にまで対象を拡げた上で過去から現在に至る アジアの状況を論じているので意外な思いがした。 第2章ではアジアで起こっている企業を主体とした経済統合の流れを述べており、 統合の経緯をEUと対比している。 EUは国家が主体となって制度作りから始まったような印象だが、アジアでは あまりに国家が多様・異質なためにそのような形での統合は発生しづらく、 緩やかかつ着実な形での統合が進んでいるという。 ニュースではどうしても国家間の経済で協力もうまくいかないかのように思えるが、 どうしてアジアなりの形で交流は進んでいるという話には、 アジアもなかなか捨てたものではないなと思った。 また、第7章では日本文明の独自性を述べている。 権威と権力、権力と富の分離は日本論でしばしば述べられることだが、 公家的な雅の力で武家的な荒々しい力を抑えようとする考え方があったとする論は これまで接したことがなかったのでかなり新鮮に感じた。 川勝平太や白石隆などアジアや文明の専門家の論を引用している部分が多くて 読みやすいとは必ずしも言えないが、それだけに多くの見方を教えられる。 文明の大きな流れの中からアジアの開かれた形での統合が進んでいくのではないかとの 著者の考えには、多少楽観的なところはあるものの、こうあって欲しいとの希望もあり 納得する部分も多かった。
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