陰陽師―飛天ノ巻
あまりこの手の小説には興味を示さないが、実家に置いてあったので 食わず嫌いもなんだと思って読んでみた。 ストーリーとしてはホームズにあたる安倍晴明とワトスンにあたる 源博雅が妖怪がらみの事件にあたる連作。 人気があるだけに面白かったが、やはり好きな分野ではなかった。 ・ プリズンホテル〈1〉夏
従業員もヤクザ、宿泊客の多くもヤクザという ツッコミどころの多い設定のホテルを舞台とした小説。 強いて主人公格といえる任侠小説で人気のある作家の孝之助は、 ヤクザの叔父が運営しているホテルに招待される。それが通称 ”プリズンホテル”ことあじさいホテルだった。 ここで個性的な人物が多数登場して、さまざまな笑いと涙の 人間ドラマが繰り広げられることになる。 ヤクザたちのほかにフィリピン人の従業員、たまに来る堅気の客も 心中を決行しようとする一家や熟年離婚間際の夫婦、さらには 幽霊まで登場する。 テンポの良いドタバタ劇、そして時々しんみりしてみたりして 非常に面白かった。他に3冊続編があるので、これらも読むことにする。 ・ 分身
鞠子と双葉、他人のはずなのになぜか似ている2人が、それぞれの 出生の秘密を知ることになる先端医学ネタのサスペンス。 この小説に登場するクローンやキメラという遺伝子技術は、学生時代に 教養科目で家畜を対象とした遺伝子研究の講義を受講したことがあるため すんなりと理解ができた。 (クローンもキメラも、羊などではそれなりに成功例がある) 途中から展開が読めてきたが、伏線の張り方や舞台の変化が鮮やかで 一気に読み進むことができる。また、鞠子、双葉それぞれの章に登場する レモンという小道具がいい味を出している。 SFではクローンやキメラなど珍しくもなんともないが、ヒトゲノムが解読される 時代である現在では現実に起こりうる話なので、怖さがひしひしと感じられる。 ・ 川の名前
小学生5年生の脩とその同級生たちが、夏休みに体験するさまざまな 出来事や冒険を通して成長していくジュブナイル。 少年たちの個性が活き活きと描かれており、しみじみと感動する ようなストーリーとなっており、自然と人間の関係を考えさせられる。 ただ、読む側が以前ほど純粋ではなくなってしまっていたため フルに楽しめなかったような気がしないでもない。 後半に目を引くシーンとして、やらせで面白おかしく番組を作ろうとする テレビ局のディレクターが出てくるが、某テレビ局のお仕着せの感動を 与えようとする某特番が出てきていて、”そう、その通り、あの偽善的な ところが嫌い”と納得してしまった。 午後1時台のTBSドラマにしたら、そこそこ視聴率が稼げそうな作品とも 思った。 ・ 日本国の逆襲
多国籍軍による日本への攻撃によって日本は経済力の放棄を 強いられることになったが、逆に世界中の人々が日本人化 してしまうという表題作の他、ユーモアSFないしはナンセンスと でもいった短編集。 大相撲がなぜ絶滅したのかを研究者たちが分析する「大相撲の滅亡」や 世界中で解答を求める現象が起こり主人公がなぜか成り上がる 「pH7の秋」、インドで育った天才少年が凡庸な日本人になるため 大変な苦労をする「インドから来た青年」など、日本社会のおかしさを 皮肉っていて笑えた。 ・ ロスノフスキ家の娘
『ケインとアベル』の続編。前編の主人公の一人でホテル王のアベル・ ロスノフスキの娘であるフロレンティナが父親譲りの経営センスを発揮して 経営者として成長し、ついで政界進出も果たしていくサクセスストーリー。 友人や恋人、政敵やライバルなど多彩な人物も登場し、またアメリカの 選挙戦の模様や冷戦時代の雰囲気も随所に出てきて面白かった。 ・ ケインとアベル
2人の全く境遇の違う男が、人生の重大な場面で遭遇する長編小説。 ケインはアメリカの銀行家の息子として、アベル(ヴァデク)は ポーランドの農奴の子として生まれる。ケインは銀行家への道を 歩み、アベルはアメリカへ移住後長い下積み時代を経てからホテル チェーンの経営者としてのし上がっていく。 その後お互いをライバルとして意識することになり、様々なドラマが 展開される。 2度の世界大戦や冷戦など20世紀のアメリカ史が背景として 物語に大きく影響しており、実に読み応えのある1冊だった。 ・ 第二次脱出計画
広告代理店を脱サラしてSF作家になった主人公が、執筆生活を邪魔する 世の中のしがらみの数々に耐えかね、執筆に専念できる状態への脱出を試みると いう自伝的小説。 主人公の”なんのぼうし”氏はどう見ても著者であるかんべ氏のキャラクター そのものであり、いくらかは脚色されているのだろうが大部分は実話だろう。 また、ところどころで登場する同業者たちも下記のように誰かが何となく分かる。 ・ヤッシャ・ツッチーニ ≒ 筒井康隆 ・沈没親分 ≒ 小松左京 ・荒熊雪乃丞 ≒ 横田順彌 それでもドタバタ小説として読者が楽しんで読める形にしているのはさすが。 作家の日常を描いているという点では、下手なエッセイなどよりもよく分かる。 ・ こちら、FM遊々です!
大阪近郊にあるいずかた市で営まれるラジオ局、FM遊々の面々が巻き込まれる 市長選挙をめぐるドタバタを描いた小説。 番組で事前運動を始める者、UFOにとりつかれて無謀にも一人で選挙に挑む 老人、宗教団体の候補や選挙ゴロなど、うさん臭い人物が次々と登場して 買収や裏工作、誹謗中傷など選挙に勝つために色々な手段を弄していくことで 選挙戦はドタバタの様相を呈する。 その中でFM遊々はそうした不正に対して戦っていくことになるわけだが、 こうしたドタバタを描くところはこの著者の独壇場といえる。 うさんくさくも親近感ある人間たちのドタバタが面白い。 ・ アルバイト探偵(アイ)調毒師を捜せ
高校生のリュウと、その父で探偵の涼介が活躍する連作ハードボイルドの2作目。 前作で登場した康子や島津も本書で続いて登場し、リュウの生い立ちや涼介の過去など 秘密が明かされたりして物語に厚みが増している。 やはりさらっと読むことが出来、面白い。 前作はこちら↓ 『アルバイト探偵(アイ)』 ・ 波に座る男たち
麻薬も売春もやらないというポリシーのためにやっていけなくなった ヤクザが、”日本の食文化のために”捕鯨を行うことにしたことから 始まる長編小説。 著者は『黄泉がえり』で有名なSF作家の梶尾真治。ただしSFではなく 冒険ものとでも分類できそうな小説で、小林信彦が描きそうな舞台設定で 物語は進んでいく。 当然捕鯨は国際機関で一部調査捕鯨を除いて禁止ということになっており 敵役としてクリーンアースという環境保護団体が登場してヤクザの大場会と 戦いをする。グリーンピースをもじったものだろうが、クリーンアースは 最新鋭の軍備を持っており環境破壊を行う団体や人物に対し皆殺しのような 実力行使も辞さない危険な集団として描かれる。 小説としてスリリングな展開が面白かった他、現在日本で商業捕鯨ができない ことに不満だったためスカッとするものがあった。 商業捕鯨は20年近くやっていなかったため鯨の数がかなり増えており、 漁獲量が減少している一因になっている他、先日対馬沖でビートルが鯨に追突したように 報道されているように、船舶との衝突事故も増えているはずである。 基本的にグリーンピースなどという豆のような団体は日本にだけ厳しいように 感じているので、全く信用していない。 鯨はうまいというのは実にうなずける事実で、BSEの検査も出来ない米国産牛肉なんか 食べられなくてもいいから商業捕鯨を再開して欲しい。 ・ 単位物語
単位にまつわる短編小説集。温度、圧力、エネルギーや距離など 物語とからめて説明を行ったりする。 その後の『おもしろくても理科』や『どうころんでも社会』のような 作品の原型といえるかもしれない。 自腹を切って購入したわけではなく図書館で借りたものであったため 単位の話は面倒になり軽く読み飛ばした。 ・ 毒笑小説
先日直木賞を受賞した、東野圭吾の笑いをテーマとした短編集。現在TBSで 放送中の『白夜行』のような暗めのミステリーとは対照的に、ブラックな 笑いで書かれているものが多い。 忙しい孫に会えない老人が麻雀仲間と誘拐を計画する「誘拐天国」や、自首を しようとした主人公が警察でマニュアル主義に翻弄される「マニュアル警察」、 社宅の重役夫人の道楽に付き合わされる悲喜劇を描く「手作りマダム」など 大笑いできる。 巻末で同じくミステリー作家で笑いに関する同士といえる京極夏彦との対談が 掲載されており、笑いを取るにはかなりのエネルギーと集中力を要すると書いて あり、なかなか興味深いものがあった。 また、本書に収録されている「つぐない」という短編は笑いというよりも 涙や感動に近いカテゴリの作品だったが、本当は笑わせようとして書いたものだった とのこと。笑いのツボは決まったパターンがない、というよりもパターンがないから 笑いが取れるのであり、これを探すうちに泣かせるツボをついてしまう場合が あると述べてあった。ただし、その近くには”シラケル”という大きなツボがあるという 発言がかなり面白かった。 ・ 蕎麦ときしめん
清水義範の代表的ともいえる短編集。 名古屋に赴任した東京人の目から見たカリカチュアライズされた名古屋人を描く設定の 表題作の他、英語日本語源説という怪論文の序文という体裁を取った「序文」など 6つの短編より構成される。 表題作も当然面白かったが、最もツボにはまったのは「商道をゆく」と「猿蟹の賦」。 両作とも司馬遼太郎作品をパスティーシュしたものであり、司馬の文体の感じを うまく再現してあるのはさすが。しかも内容が前者では社史の編纂を命じられた課長の 独白として、後者は猿蟹合戦として描かれており、笑いがこみ上げてくる。 ・ ショートショートの広場 (17)
小説現代で連載されている、一般からの投稿によるショートショートが 収録されているシリーズの17冊目。 当初の評者は星新一だったが、星氏の死去に伴い10冊目から阿刀田高氏へ 代わっている。 作者が不定であるため、あっとおどろくもの、しんみりくるもの、 くだらない笑いのものなど、様々な作品を楽しむことが出来る。 本書の中では「背中」、「繭」、「喜怒哀楽!? 年賀状」、 「やぎさん社会の郵便改革」といった作品が面白かった。 ショートショートという作品の性質上、あまり詳しく書けないが、 「背中」ではコミカルな会話?が、「繭」は次に何が起こるのかという 話の進め方が、「喜怒哀楽・・・」は清水義範やかんべむさしのような セリフの掛け合いが、「やぎさん・・・」は最後の結末が良かった。 ・
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