沙高楼綺譚
女装の主人が催す秘密のクラブ・沙高楼ではゲストは2つの 掟を守ることになっている。 1.自分の話はありのままに語ること 2.聞いた話は他言しないこと この設定の中、ゲストたちが語る不思議な体験を描いた連作。 ゲストたちは社会的に成功してして、それだけに他では語る ことのできない秘密を持っている。その体験を語り合うという 形になっている。 刀剣の鑑定やヤクザ、ガーデニングなど多彩なもので、 その体験は奇妙に重い感じを他のゲスト、そして本書の読者に 与えることになる。 聞き役の主人やゲストも合いの手や茶々を入れたりして 感じを出しており、面白かった。 ・ モーツァルトの子守歌
鮎川哲也の三番館シリーズ第6作となる最終巻。 一人称の探偵が事件の捜査に行き詰まり、三番館のバーテンに 状況を語り解決してもらうという安楽椅子ものミステリである。 本作では肖像画や版画、プレミアもののレコードなど 美術品がらみの事件を扱ったものが多い。 叙述にある手がかりから語る三番館のバーテンの推理は スマートで大好きなだけに、これで終わりなのは実に残念。 ・ 超・殺人事件―推理作家の苦悩
税金対策のために書かれた推理小説、ひたすら枚数を稼ぐことを 命じられた推理作家など、推理小説や出版会の舞台裏を皮肉ったような 短編集。 推理小説を皮肉った著者の作品には他に『名探偵の掟』があるが、 本書の方が作家と編集者、そして少しだけ読者といった風に推理小説を 取り巻く人々が登場する分こちらの方が面白かったと思う。 ・ ハッとしてトリック!
サッカーJリーグを舞台としたミステリ。 日本代表候補DFの安東大吾が白昼、公園の楠木正成の銅像に またがった瞬間、銅像が爆発して死ぬという異常なシーンから始まる。 その事件を受け、週刊誌記者の大志郎が後輩記者の典絵とともに 事件の取材を行うが、まもなく次の怪死事件が発生する。 大志郎や典絵の他に事件を捜査する刑事の太田黒や、浦和レッズの 名将・渋川監督に、SF作家とクラブ監督を兼務する新藤など 特徴ある人物たちのやり取りが活き活きと描かれ、一気に読み進んだ。 鯨統一郎作品は当たり外れの幅が結構あるように思うが、本作は Jリーグやサッカー日本代表の様子などが結構きちんと描かれていて 当たりの方の作品だと思う。 ただ、変換ミスによる誤植がいくつかあるのはいただけない。 ・ 名探偵の掟
名探偵の天下一大五郎と大河原警部が登場する、よくある ミステリのお約束をからかったようなミステリ連作。 密室、凶器、ダイニングメッセージといった作品の本質に 関わる部分から、一民間人に過ぎない天下一が何となく 捜査に口を出していくような細かい箇所まで、天下一と 大河原が随所で素に戻り自虐的にけなしていくあたりは 笑ってしまう。 コンセプトとしては今年放送されたテレビ番組の、 ”くりいむしちゅーのタリラリラーン”に似ている。 これはベタなテレビ番組をネタにしたもので、そういえば 2時間ものミステリーのもあったのを思い出す。 船越栄一郎がベタ田一耕輔としてベタな推理を行うもので これもまた面白かった。 軽く面白がるもよし、よくあるミステリのお約束を 突っ込むもよしという作品。 ・ クイーンの色紙
控えめなバーテンの名推理が冴える三番館シリーズの第5集。 前作の『材木座の殺人』で少しずつ変則的なパターンが出だしていて、 本書でも探偵や弁護士が登場しない作品(表題作、鎌倉ミステリーガイド)や バーテンが三番館を離れて活動する作品(秋色軽井沢)が出てきて シリーズに微妙に多彩さを加えている。 派手なトリックを駆使するわけではないが、事件解決の糸口を用意つつ、 読者にそれを気付かせないようにストーリーを進めるという、本格派らしさを 味わうことができる。 表題作のクイーンというのはミステリ作家のエラリー・クイーンのことで 著者は日本のクイーンとでも言える存在らしい。 クイーンは読んだことがないが、そのうち読んでみようかと思う。 ・ 材木座の殺人
バー・三番館のバーテンが推理する安楽椅子ものミステリの第4集。 通常このシリーズでは、 ・事件発生 ↓ ・弁護士が探偵に事件を持ち込み、探偵が調べる ↓ ・探偵が調べた結果を元に、バーテンが事件を解決 というパターンが基本となるが、本書の表題作では太った弁護士が 登場しないという変則的な構成になっている。 ただしトリックは相変わらず本格的で、実に見事。 やられた!という感想を大抵持つことになる。 ・ ブロンズの使者
安楽椅子探偵ものミステリである三番館シリーズの第3集。 一人称のハードボイルド探偵が、バー・三番館を訪れ ダルマに似たバーテンが見事な推理を行う。 当初のアリバイ崩しから本格推理の種類が多彩になってきて 「マーキュリーの靴」や「塔の女」のような人間消失ものも 出てくる。 本格推理にこだわる著者らしく、決して反則を使ったりせず 状況からの盲点を巧みに生かし、最後にあっと言わされてしまい おもわずニヤリとしてしまう。 ここ数年読んだ中では黒後家蜘蛛の会、怪盗ニックとともに 好きなシリーズ物ミステリ。 ・ サムソンの犯罪
バーを舞台に推理が行われる連作ミステリ・三番館シリーズの第2作。 典型的なハードボイルド探偵の”私”が事件解決に行き詰まった時に 相談する三番館ビルのバーのバーテンの推理の鮮やかさは第1作同様 健在で、「分身」がいまいちだったような気がする他は良かった。 題材も麻雀やストリーキング、ドッペるゲンガーなどいろいろなものを 用いていて多彩な作品集となっている。 また、「わたし」と事件を持ってくる太った弁護士との皮肉を交えた やりとりも、ストーリーに奥行きを加えている。 登場人物のセリフのやり取りが活き活きと描写され、読みやすい。 ・ てとろどときしん―大阪府警・捜査一課事件報告書
『八号古墳に消えて』や『二度のお別れ』といった著者の他の作品にも 登場する黒木・亀田両刑事の黒マメコンビが活躍する表題作の他、 大阪府警・捜査第一課がからんだ事件を描いた短編集。 黒マメが登場する作品の他、事件に関わった当事者やその関係者が 主人公の作品もあり、多彩な感じに仕上がっている。 好きな作品は、刑事の誠一とその妻で塩干屋で働くデコ(照子)が事件を 解決する「飛び降りた男」。変わり者のデコが誠一を振り回しつつも、 見落としがちな点をついて事件の核心に迫るのが面白く、ドラマにしても 人気が出そうだと思った。 ・ ロシア紅茶の謎
社会学の助教授でホームズ役の火浦と、推理作家でワトスン役の有栖川のコンビが 事件を解決するシリーズもの連作ミステリ。 殺人の被害者が残した暗号、毒殺事件における犯人探しなど、いかにもミステリというか パズルのような凝った設定で事件が発生する。 有栖川は推理作家の割には、というよりも推理作家らしく空回った感じの推理をし、 火浦がそれを横目に身ながら事件を解決するやり取りがなされ、テンポがいい。 この中では、「屋根裏の散歩者」がネタも含めて面白かった。 ・ とんち探偵一休さん 謎解き道中
一休さんが、アニメでもおなじみの新右衛門さん、そして少女の茜とともに 茜の両親を探すたびに出、道中でさまざまな事件を解決していくという 連作歴史ミステリ。 一休さんが事件の調査を行うために現場を見たいというと、犯人に近いとおぼしき 有力者から無理難題を吹っかけられ、とんちで切り抜けるというお約束があり その後謎を解くというパターンとなっている。 とんちやトリックはそこそこといったところだが、訪れた国の印象を聞かれて ”団子のうまい国”と返答するなど人を食った発言を独特の関西弁で行う 一休さんのキャラクターが面白い。 ・ 月に吠えろ!―萩原朔太郎の事件簿
副題の通り、大正時代の詩人である萩原朔太郎が探偵役として事件に挑む 連作ミステリ。 朔太郎の友人で同じ詩人である「わたし」がワトスン役として登場し、 アリバイ崩しや不可能犯罪、人間消失トリックなど7編が語られる。 そして事件の最後に朔太郎の詩が掲載され、事件によりインスピレーションを 得たという構成になっている。 女好きでうぬぼれの強い朔太郎のキャラクターと、「わたし」や師匠の北原白秋など 大正時代の文人たちも登場するのが話に彩りを加えていて、面白かったと思う。 ・ ユニオン・クラブ綺談
『黒後家蜘蛛の会』と並ぶ、アシモフの連作ミステリ。 ユニオン・クラブで語り手を含む3名が雑談をしていると、それまで 居眠りをしていたグリズウォルド老人が会話に加わり自分が体験したと 称する事件を語る。 そこで事件を解決した旨を語って再度居眠りをしようとすると、 他の3人が謎解きを要求する。すると”なんだ、こんなことも分からないのか?” などと嫌味を言いつつ謎解きをするというもの。 それぞれの話がショートショートのようなごく短い構成となっているため、 本当にアイデア勝負という形になっていて、それでいて読ませるうまさが目立つ。 ただ、どちらかといえば『黒後家蜘蛛の会』の方が好みではある。 ・ 山伏地蔵坊の放浪
毎週土曜日にバー”エイプリル”にて山伏地蔵坊が体験したと称する 殺人事件を語る、安楽椅子もの連作ミステリ。 常連たちのたわいのない会話から始まって、地蔵坊が話題に関連した 経験があると発言し、そこから語り手である青野が「面白そうですね。 ぜひ聞かせてください」と催促するのをきっかけに、地蔵坊が事件に 遭遇し推理した”体験”を語る。 材料が出揃ってから、常連たちがああでもないこうでもないと推理を 行い、あらかた出尽くしたところで地蔵坊が勿体をつけて謎解きを 行うという構成になっている。 バーでなされる軽妙な会話と地蔵坊という普段登場しないタイプの キャラクターがマッチしていて、本格推理として面白かった。 また、物語の最後にマスターと青野がとぼけた会話を行うところも 好きな部分である。 ・
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